vol.10 犬歯の異常に早めの対処を:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

vol.10 犬歯の異常に早めの対処を

知っておきたい!犬歯の異常には早めの対処が必要なこと

知っておきたい!犬歯の異常には早めの対処が必要なこと

大人の犬歯が正しく生えない場合があるのは、なぜ?
■あごの動きを正常に保つのが犬歯の役割
最初に、歯の役割についてご紹介しましょう。
歯には大きく分けて、前歯にあたる「切歯(せっし)」と、奥歯にあたる「臼歯(きゅうし)」、そしてその中間にある「犬歯(けんし)」の3種類があります。それぞれの歯には役割があり、その役割に適したカタチをしています。
例えば、食事をするときものを噛み切ったり、発音をよくしたりするのが平たいカタチをした切歯。そして、切歯で噛み切った食べものをすりつぶしたり、細かくしたりするのが厚みのある臼歯。
そんな切歯と臼歯の間にある犬歯はひし形のようなカタチをしていて、食べものを切り裂く「牙」に相当します。そのため、すべての歯の中で根っこ(歯根)がいちばん長く、強度があり、切歯・臼歯に比べて最後まで残存しやすいといわれているのです。また、犬歯は咬み合わせの位置を保ち、あごの動きを正常に行うという大切な役割も担っています。
乳歯から永久歯に生えかわり始めるのは、平均すると6歳~12歳。歯が生える順番や時期には個人差があるため一概にはいえませんが、上あごの場合、最初に乳切歯が抜け、次に乳臼歯、最後に乳犬歯が抜けることが一般的です。
それに対応する永久歯は、最初に六歳臼歯といわれる大臼歯が生え、次いで切歯、そして小臼歯、最後に犬歯が生えて、大人の歯列が完成します。
●乳歯の名前と生えかわる時期の目安
乳歯の名前と生えかわる時期の目安
●永久歯の名前と生えかわる時期の目安
乳歯の名前と生えかわる時期の目安
このうち上あごの犬歯が生えてくるのは、年齢でいうと10~12歳頃が一般的。ほかの歯が生えた後、高い位置から顔を出す犬歯は、生えきるまでの移動距離が長いため、通常、先に生えている側切歯の歯根(歯の根っこ)の縁を沿うようにして降りてくると考えられています。
しかし、最近ではそんな犬歯が正しい位置に生えない子どもが増えていというのです。
いったい、なぜでしょうか。
■あごが細く歯が大きい現代っ子は、犬歯が正しく生えにくい!
新潟大学の小児歯科のグループは、上あごの犬歯が正しい位置に生えない割合は、中切歯の39%に次いで約15%を占めると報告しています。
その理由は、最近の子どもたちは昔に比べて頭が小さく、あごの幅も狭いのに対して、歯の幅が大きくなっているため。要は、食生活などの変化に伴ってあごが細くなり、永久歯が生える十分なスペースがなくなったことで、最後に生えてくる上あごの犬歯が行き場を失い、萌出障害(正しい位置に生えないこと)を起こすというわけです。
先ほど書いたとおり、犬歯は咬み合わせを安定させる要となる歯。その犬歯が正しい位置に生えないと、臼歯に対する力のコントロールができないため、長期的にみて臼歯の咬み合わせに負担がかかったり、歯列を乱したりする原因となります。
また、切歯から犬歯までは微笑んだときにも目立つため、ゆがみなどがあると審美的にもよくありません。
それだけではなく、上あごの犬歯の萌出障害は、口の中の健康にさらに大きなリスクをもたらすことにもなるのです。
★次のページでは、犬歯がうまく生えないことのリスクについてご紹介!

歯の根っこが短くなるって、どういうこと?

知っておきたい!犬歯の異常には早めの対処が必要なこと

歯の根っこが短くなるって、どういうこと?
■犬歯が正しく生えない子どもの0.8~2.9%に歯根吸収が起こっている
上あごの犬歯の萌出障害がもたらすリスク、それは隣りあう歯の根(歯根)のセメント質や象牙質を溶かし、短くしてしまうことにあります。これを「歯根吸収」と呼びます。
しかし、歯根が半分くらいになっても、歯に痛みや変色などは起こりません。そのため、発見が遅れて、さらに歯根吸収が進行すると、やがて歯に痛みを感じ、最悪の場合には歯が抜けることもあるのです。
海外の研究データによれば上あごの犬歯の萌出障害が起きた人のうち38%に、隣接する切歯の歯根吸収があったということです。また、その割合を子どもに限定すると、0.8%~2.9%に隣接歯の歯根吸収が起きていたのだとか。
その結果、犬歯の萌出障害は女児が男児の1.9倍にのぼり、span class=”bold-text”>問題があらわれる年齢は男女とも10~11歳がもっとも多い*ことがわかっています。
*公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会の研究から引用
●110症例の男女比
110症例の男女比
110症例の男女比
■歯根が切り落とされるような重度だと、抜歯するしかない
具体的に、画像を見ながらご紹介しましょう。
Aのエックス線写真は、11歳の女児の歯の生えかわりの様子を示すものです。乳歯を押すように、顎骨の中に永久歯が準備されていることがわかります。
一方、Bの画像では、上あごの犬歯が斜めを向き、隣り合う切歯の歯根に重なっています。その結果、切歯の歯根が切り落とされ、切歯は安定を欠いた状態に……。
ここまでくると歯としての機能は望めず、切歯を抜歯するしかありません。
A顎骨の中で生える準備をしている上あごの犬歯(問題のない例)
顎骨の中で生える準備をしている上あごの犬歯(問題のない例)
B上あごの犬歯によって切歯が歯根吸収された例
上あごの犬歯によって切歯が歯根吸収された例
抜歯した後はブリッジやインプラントなどの方法で抜いた歯のすき間をカバーするか、矯正歯科治療で犬歯を切歯の位置に動かして歯列を整えることになりますが、こうなる前にリスクを回避することが大切なのはいうまでもありません。
では、そのためにはどうすればいいのでしょうか?
★次のページでは、予防法についてご紹介!

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<div align=予防するには、どうすれば?

知っておきたい!犬歯の異常には早めの対処が必要なこと

予防するには、どうすれば?
■小学校低学年のうちに、パノラマエックス線撮影を!
犬歯が正しい位置に生えないことによるリスクを回避するには、犬歯が生えてくる前の7~8歳の間に、矯正歯科や一般歯科でパノラマエックス線写真を撮り、歯の生えかわりが順調かどうかをチェックしておくことが大切です。
パノラマエックス線写真とは、口の中全体を1枚のエックス線フィルムに撮影する写真のこと。撮影することで歯の数の異常(先天性欠如歯など)や骨の中の異常、顎骨の中にある永久歯の状態を知ることができたり、歯の生え変わりや将来の歯並びなどを、ある程度予測することができます。
小学校低学年のうちに、パノラマエックス線撮影を!
このパノラマエックス線は一般歯科でも撮影できますが、矯正歯科に行くことで、生えかわり期に必要な歯並びと咬み合わせのチェックも受けることができます。
撮影には健康保険が適用されず、3,000円~5,000円(消費税は除く)の自己負担となりますが、将来のために受けておく意味は大きいといえます。
■矯正装置をつけ、埋まった歯を引っぱり出すことも
そして、パノラマエックス線撮影をして犬歯の萌出障害が見つかったら、乳犬歯を抜くなどの処置を受けることも大切です。そうすることで犬歯の生えるスペースができ、傾いていた犬歯が正しい位置に生えやすくなるからです。
さらに矯正歯科では、犬歯の萌出障害の状態によっては、一般歯科と連携し、埋まっている犬歯を引っぱり出す「開窓(かいそう)」という処置をして、歯列を整えることもあります。このとき、仮に隣の歯に歯根吸収が起きていたとしても、程度が軽ければ、犬歯の位置をずらすことで吸収された歯根は自然に再生されます。
大切なのは、切歯の歯根吸収というリスクを回避して、健康な歯を守ること。そのためにも、まずは小学校低学年で生えかわりの状況をチェックしておきたいものです。
●上あごの犬歯による切歯歯根吸収のリスクを回避した例
上あごの犬歯による切歯歯根吸収のリスクを回避した例
6歳7カ月で矯正歯科に来た女の子の例です。
小学校低学年でパノラマエックス線写真を撮影したところ、
上あごの犬歯による切歯歯根吸収が起きる直前だということがわかりました。
上あごの犬歯による切歯歯根吸収のリスクを回避した例
リスクを回避するために、上あご右側の犬歯を開窓し、引っ張り出す処置を受けました。
矢印
上あごの犬歯による切歯歯根吸収のリスクを回避した例
その結果、犬歯による切歯の歯根吸収は回避されました。
※現在、永久歯列になるまで経過観察中。その後、矯正歯科治療で咬み合わせを安定させる予定。

Self Check

こんなこと、ありませんか?
乳歯から永久歯への生えかわり時期の歯と歯並び

list
★チェックの数が多いほど、将来の歯並びには注意が必要です。早めに矯正歯科に相談しましょう。

パノラマエックス線撮影をして、咬み合わせや歯列に問題があることがわかったら矯正歯科治療を受けておくことも大切です。
成長期だからこそ、できることもあるもの。子どもの咬み合わせや歯列について、今一度、見直してみてはいかがでしょう。

成長を利用できるのが、子どもの矯正歯科治療
矯正歯科治療は、安定した咬み合わせと美しい歯列をつくるために受けるもの。治療は大人になってからでも受けられますが、子どものうちから始める利点もあります。
ひとつは、子どものときに始めることで、成長発育が利用できること。咬み合わせや歯並びの悪さは、歯だけではなく、顎骨にも問題がある場合が多いものですが、大人の場合はすでに成長が止まっているため、たとえ顎骨に問題があったとしても、歯の位置を動かして治すことしかできません。そのため、治療効果にも限界があるともいえるのです。
一方、発育過程にある子どもの場合、上下のあごの成長を抑制したり、促したりして治すことができます。つまり、顎骨と歯並びの両面から治療することが可能なわけです。
また、子どもの場合は比較的シンプルな矯正装置を使用することができ、また子どもは大人に比べてむし歯や歯周病などによる治療跡が少ないため、矯正装置の装着が容易にできるのも利点です。さらに、最近では学校にも矯正歯科治療中の子どもが増えてきているため、疎外感もなく、治療になじむのも早いでしょう。
注意点としては、治療する子ども本人に前向きかどうか。親の意向で始めたとしても、治療する目的や理由は子どもにきちんと伝えておくことが大切です。
歯の根っこが短くなるって、どういうこと?