子ども時代の矯正歯科治療の正しい知識を知ろう|Vol.19 健康は「咬み合わせ」から ―安心の矯正歯科治療を知ろう―:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

子ども時代の矯正歯科治療の正しい知識を知ろう


■あごは上と下とで成長速度(成長時期)が違う
茂木悦子先生続いて行われたのは、茂木悦子先生(東京歯科大学客員教授、白山きりん子ども矯正歯科 院長)の講演です。タイトルは、「子ども時代の矯正歯科治療について―役立つ基本的な知識―」。
茂木先生は「ハリスとスキャモンの臓器発育曲線」というグラフを示しながら、子どもから大人にかけてのあごの成長について説明しました。

何歳の段階で、それぞれの臓器がどういう発育状態にあるのかを示したグラフ。20歳になった段階の臓器の成長量を100%とし、各年代での成長の目安とするために歯学教育の場などで用いられる。
●リンパ系型……胸腺、リンパ線、扁桃が含まれ、ピークは12歳頃
●神経系型……脳、脳頭蓋骨、脊髄、視覚器(眼)が含まれ、ピークは8歳頃
●一般系型……骨格、筋肉、循環器、消化器、顎骨、顔面頭蓋、動脈、静脈、血液が含まれ、S字カーブを描くのが特徴
●生殖器系型……精巣、卵巣、性器が含まれ、4つの中で成長時期が最も遅い
ハリスとスキャモンの臓器発育曲線

「このグラフの横軸にある10歳のところを見てください。一番パーセンテージが高くなっているのがリンパ系型で、ついで神経系型、一般系型、生殖器系型となっていますよね。ここからわかるのは、子どもの各臓器・各器官の成長は決して一律ではなく、バラツキがあるということです」
茂木先生によると、頭蓋骨や上あごは神経系の仲間で、下あごは腕や足などと同じ一般系に分類されるのだとか。つまり、同じあごでも上と下ではグループが違うというわけです。
「10歳の時点で上あごが属する神経系の成長率は、ほぼ100%。つまり、ほとんど成長が完了しています。でも、下あごが属する一般系はまだ50%と成長の最中にあり、20歳近くまで成長を続けます。要は、同じあごでも上と下とでは、成長の時期が大きく違います。矯正歯科治療は、こうした成長時期の違いを治療に活かしているのです」
茂木悦子先生「例えば、下顎前突(受け口)は上あごの成長が抑えられていることが原因でもあります。ですから、上あごの成長期である10歳以前に、反対になった上下の咬み合わせを正常にしたうえで、上あごに成長のチャンスを与えてあげることが大切になります」
このように、矯正歯科治療を専門で行う歯科医は、上下のあごの成長時期の違いを頭に入れたうえで、不正咬合に対応しているというわけです。

■成長期から治療するメリット
では、10歳未満から矯正歯科治療を始める場合、どんなメリットがあるのでしょうか?
茂木先生は、2つの事例をもとに、成長期の矯正歯科治療のメリットを紹介します。

【Case1】3歳で治療を始めたAさん(女性)の場合

  • ●上あごの成長期である3歳から簡単な装置を装着し、比較的早く被蓋は改善し、5歳での咬み合わせの様子を示す。
  • ●その後は矯正装置をつけずに定期的な受診で、現在は歯の生え変わりや咬み合わせの観察を継続中。

【Case1】3歳で治療を始めたAさん(男性)の場合
POINT
★反対咬合は、日常生活の中で発見されやすい不正咬合のひとつ。気づいたときにすぐに矯正歯科に相談に行くのがおすすめ!


【Case2】9歳から治療を始めたBさん(女性)の場合

  • ●混合歯列期の9歳のときに反対咬合の治療を開始。
  • ●永久歯が生えそろった段階では咬み合わせが改善。20代になっても定期検診を続け、きれいな咬み合わせを保っている。

【Case2】9歳から治療を始めたBさん(女性)の場合
POINT
★咬み合わせの状態によっては、早期の治療によって、永久歯の抜歯を回避する可能性も生まれます!



2つの事例からわかるように、子ども時代から矯正歯科治療を始めるメリットとして、あごの成長発育を生かせることが挙げられます。
また、矯正歯科での検査によって永久歯の先天性欠如や過剰歯(※)、埋伏歯(※)といった問題にも早く気づくことができ、適切な処置がとれるのも大きな利点といえます。
※過剰歯(かじょうし)
通常の歯の本数よりも多く形成された歯のこと。口の中に生えてくる歯と、あごの骨の中に埋まっている歯とがある。
※埋伏歯(まいふくし)
あごの骨の中や歯肉に埋まったまま生えてこない歯のこと。放っておくと、その歯が本来生える場所の両隣の歯が倒れこみ、生えてくる場所がなくなったり、咬み合わせが悪くなったりする。
■歯の生え変わりが遅いのは気にするべき?
咬み合わせに問題があるかどうか気づくタイミングとして挙げられるのが、乳歯の歯並びや永久歯の歯並びが完成するときだと、茂木先生は話します。
茂木悦子先生「一般的には、生後6か月くらいに歯が生え始め、3歳くらいで乳歯列が完成します。その後、永久歯に生え変わり出して、12歳くらいに永久歯列が完成します。ただし、これはあくまで目安なので、同年の子どもより6か月から9か月くらい時期が遅くても、気にすることはありません」
気にしたほうがよいのは、左だけ犬歯が映えてきて右は生えてこないといった場合。
「だいたい歯は左右違わずに生えてきます。ですから、左右のどちらか一方だけかなり遅いというのは問題があります。おかしいと思ったら、その時点で矯正歯科を訪ねて必要な検査を受けていただきたいですね」

【まとめ】
  • ●子どもから大人への成長は臓器別に異なる
  • ●上あごは10歳くらいでほぼ成長が終わるといわれており、それまでに成長の機会を与えることが大切である
  • ●下あごは思春期あるいはそれ以降の20歳くらいまで成長することがあるので、上あご下あごの調和を成長完了まで観察することが大切
  • ●子ども時代からの矯正歯科治療は、あごの成長が利用でき、永久歯の異常にも早期に気づくことができる
  • ●歯は左右違わずに生えるため、片側しか生えない場合は検査が必要



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