2017年6月13日

安心して矯正歯科治療を受けるための6つの基本

■受診時の目安を知っておくことが大切

これまでご紹介した3つの事例は、いずれも現在、矯正歯科で安定した咬み合わせへと向かう治療が続けられています。しかし、これまでの道のりを見ると、患者さんがかけた労力や時間、費用は大変なものだといえます。

矯正歯科医会では、こうしたトラブルをなくすために、信頼できる矯正歯科治療を見極める受診時の目安として「6つの指針」を掲げています。ぜひ、参考にしてください。

1 頭部X線規格写真(セファログラム)検査を行っている
繊細な作業を求められる矯正歯科治療では、口腔内の検査にレントゲンは必須。なかでも、頭部X線規格写真による検査は、診断のグローバル・スタンダードといえるもので、この検査を行うことで上下のあごの大きさやズレ、あごや唇の形態、歯の傾斜、口もとのバランスなどの状態を正確に知ることができます。この検査をせずに矯正歯科治療を行うのは、目的地を定めずにロケットを発射するようなもの。危険きわまりない行為といえます。

頭部X線規格写真

2 精密検査を行い、それを分析・診断したうえで治療している
矯正歯科治療を行うには、臨床検査が不可欠。具体的には、①口の中の検査 ②あごの機能と咬み合わせの検査 ③あごのプロポーション検査 ④筋機能の検査。また、診断資料を分析するために、石こう模型や頭部X線規格写真の分析なども行います。これらの分析・診断を踏まえて、治療方針を決めるのです。

3 治療計画、治療費用について患者さんに説明をしている
矯正歯科では、採取した資料を後日患者さんに見せながら、診断や治療方針の説明を行っています。その中で患者さんに対してわかりやすく治療のゴールやそのプロセスを示し、個々に適した治療装置とその効果、治療期間、後戻りの可能性や治療のメリットとデメリットなどについて伝えます。逆にいうと、資料を見せて説明しない矯正歯科は信用できないということです。

4 治療中の転医と、その際の治療費精算まで説明している
数年を要する矯正歯科治療では、治療途中に引っ越しや留学などで、治療先の矯正歯科を替わらざるを得ない場合も出てきます。その際、転居先にできるだけ近い矯正歯科を紹介してくれるかどうかも重要なポイントです。矯正歯科医会の場合、「転医システム」が整っており、転医段階で治療費の精算も行っています。

5 常勤の矯正歯科医がいる
治療日数が限られ、緊急時の対応ができない場合もある非常勤の矯正歯科医では、矯正装置がとれてしまったなど器具に不具合があってもすぐに対応できません。逆に、常勤であれば緊急時の対応ができるほか、同じ担当医による一貫治療が受けられるという安心感があります。

6 専門知識のある歯科衛生士やスタッフがいる
矯正歯科を専門にしている歯科医院なら、歯科衛生士やスタッフも矯正歯科治療に熟練しており、治療中の食事や歯みがきなどにもしっかりとしたアドバイスやケアができるもの。また、矯正歯科医の指導のもと、患者さんへの様々な対応も可能となります。

■拡大床についての相談を受付中!

矯正歯科医会の公式ホームページ内にある「矯正歯科何でも相談」のコーナーでは、この春から拡大床の無料相談室を設け、拡大床で治療をしている方やこれから治療を検討している方からの疑問や相談を受け付けています。
ご相談は「矯正歯科何でも相談」の相談フォームに必要事項をご記入のうえ送信してください。後日、メールにて担当部署から個別に回答が送られます。

2017年6月12日

拡大床による矯正歯科治療のトラブル事例②

■必要な装置は、治療前の検査・診断を経て決まる

Case2 5年以上拡大床を使い続けた末に
結局抜歯をしたB美ちゃん(13歳)の場合

B美ちゃんは、歯を抜かずに歯並びを整えるため、一般歯科のもとで6歳から約5年間、拡大床を使用した治療を受けました。その中で、あごをより効率よく広げるために、発育に合わせて拡大床を4回作り直したといいます。

その後、13歳で上あごの右側犬歯(前から3番目の歯)が本来生えるはずの場所ではなく、中切歯(前から2番目の歯)の歯肉側から生えてきてしまった(犬歯の異所萌出)ため、これまでの非抜歯治療から一転、主治医から犬歯の抜歯を提案されてしまいます。 それを不安に感じたご家族がB美ちゃんを連れて矯正歯科を受診しました。

拡大床をつける前


4つも拡大床を作り替えたことから、真面目に治療を受けていたと思われるB美ちゃん。にもかかわらず、矯正歯科に来たときには口もとは出たままでした。パノラマX線写真を撮って見ると、犬歯は切歯(1番目の歯)の横にありました。

●矯正歯科専門歯科医院を受診した際のパノラマX線写真
矯正歯科専門歯科医院を受診した際のパノラマエックス線写真

犬歯は咬み合わせを安定させる要となる歯だけに、異所萌出を放置すると、見た目によくないだけでなく、臼歯(奥歯)の咬み合わせに負担がかかり、歯列を乱す原因となります。
そればかりか、隣接する歯を傷め、寿命を短くしてしまうことにもつながってしまうのです。

そこで矯正歯科では、犬歯の異所萌出により今後起こりうるリスクを本人とご家族に説明し、同意を得たうえで、犬歯を本来の位置に移動することはあきらめ、歯根のダメージを受けている上あごの左右両方の側切歯(前から2番目の歯)と、下あごの左右両側の第二小臼歯(前から5番目の歯)を抜歯し、マルチブラケットを用いて再治療を開始しました。

1年半が経過した今、矯正歯科治療は順調に進行しています。

●現在の歯並び
現在の歯並び

★犬歯の異所萌出については、トレンドウォッチvol.10をご覧ください。

Case3 治療ゴールがないまま拡大床を使用し
反対咬合になったC雄くんの場合

C雄くんは、永久歯が生えるスペースを確保するため、9歳のときから5年間、一般歯科のもとで上下のあごに拡大床をつけました。その結果、上下とも、ほぼデコボコのない状態で永久歯が生えました。

しかし、拡大床の使用中に反対咬合になってしまったのです。口の中の写真を見ると、大臼歯が咬み合っていないのがわかります。そのことに疑問を抱き、14歳のとき、自ら矯正歯科を訪ねたのでした。

●拡大床使用中(12歳8か月)の歯列状態
拡大床使用中(12歳8か月)の歯列状態 拡大床使用中(12歳8か月)の歯列状態


このようにずれてしまった臼歯は、拡大床の使用だけでは改善できません。また、C雄くんは下あごの成長とともに右方へのズレも認められ、正面からみて顔が非対称になってしまっています。これは治療のゴールを明確に定めないまま、安易に拡大床を使ったことによるトラブルです。

●矯正歯科を訪ねたとき
矯正歯科を訪ねたとき

矯正歯科では、骨格的な歪みと下あごの突出は矯正歯科治療のみでは治せないと判断し、本人と相談のうえ、「顎変形症」として成長終了後にあごの外科手術を併用する矯正歯科治療を行うこととしました。なお、現在は拡大床の使用を中止し、今後のあごの成長を継続している状態です。

こうした事例からいえるのは、拡大床を使用すべきかどうかは、検査・診断を経て判断されるべきだということ。そして、拡大床だけで治療を終えるのではなく、マルチブラケットを用いて咬み合わせを整えることが重要だということです。


★次のページでは、安心して治療を受けるために知っておきたい
 6つの基本をご紹介!


拡大床による矯正歯科治療のトラブル事例①

■口を閉じられないほどの出っ歯に......!?

前ページでは、矯正歯科治療を取り巻く問題点と背景をご紹介しました。ここからは、拡大床の安易な使用によってどのようなことが起きているのか、事例をもとに解説していきましょう。

Case1 一般歯科医のもとで8年間、拡大床を使った治療を受け、
あごから歯が飛び出してしまったA子さん(18歳)の場合

A子さんが、一家のかかりつけであった一般歯科のもとで矯正歯科治療を始めたのは、6歳になってすぐ。あごに対して歯が大きいため、将来、歯がデコボコにならないようにとの思いからでした。治療先の一般歯科医は「成長期の今、あごを広げておけば、この先、抜歯をしなくてもすべての歯がきれいに並ぶ」という判断のもと、拡大床の使用を勧めたといいます。

A子さんはその言葉を受け、上下の歯に取りはずしのできる拡大床をつけての治療をスタート。そして、拡大を続けること7年7か月。その間、乳歯は永久歯に生えかわり、非抜歯のまま治療は進みましたが、上下の前歯は前に飛び出すようになり、奥歯も含めすべての歯の咬み合わせが不安定な状態に......。食事をしっかりとかむという基本的なことさえうまくできず、経過観察を続けていた18歳のとき、これはおかしいと、矯正歯科専門開業医のもとに駆け込んだのです。

石膏模型


A子さんは指定された装置を真面目に使い続けたにもかかわらず、矯正歯科医のもとを訪れたときには口もとはもったりとし、自然に閉じることができない状態でした。また、歯列にはデコボコが残り、上下の前歯の根っこが歯槽骨(しそうこつ/歯を支える骨)からはみ出し、歯が外側に傾斜して咬み合わせが不安定な状態でした。

●矯正歯科受診時
矯正歯科受診時

このままではかめないばかりか、歯の寿命も短くなってしまいます。

そこで矯正歯科では、頭部X線規格写真(セファログラム)検査を行い、上下のあごの大きさとズレ、あごや唇の形態、歯の傾斜などを総合的に診たうえで、良好な歯並びと咬み合わせを生涯にわたって維持するため、上あごの両側にある第一小臼歯(前から4本目の歯)と、下あごの両側にある第二小臼歯(前から5本目の歯)の抜歯を提案しました。

●矯正歯科での頭部X線規格写真検査
矯正歯科での頭部X線規格写真検査

そして、A子さんの承諾のうえで抜歯を行った後、一般的な矯正歯科治療で用いるマルチブラケット(ブレース)をつけた治療を3年6か月行いました。その結果、咬み合わせのバランスが整い、もたついていた口もとの印象もすっきりと変化しました。

●矯正歯科での治療後
矯正歯科での治療後

●矯正歯科での治療後に行った頭部X線規格写真検査
矯治療後に行った頭部X線規格写真検査

マルチブラケット治療の前と後を比べてみると、その差は一目瞭然です。
矯正歯科での治療後

■拡大床は、あごを広げるものではない

さて、ここで知っておきたいのが、そもそも矯正歯科治療とはどんなもので、何を目指すのかということです。鶴見大学 歯学部教授の中村芳樹先生は、
「矯正歯科治療とは歯だけでなく、歯周組織やあご、骨を含む領域を扱う医療であり、決して歯並びだけを治すのではありません」と話します。

つまり、治療の対象には、歯のほかに上下の顎骨や筋、神経も含まれているのです。

「なぜなら歯は独立してあるのではなく、内側からは舌が押し、外側からは頬の筋肉や唇が歯を抑えています。こうしたバランス力学の上に歯列は成り立っているわけです。食事や会話ができるのも、歯、顎骨、筋肉、神経の4つの力が統御されているからなのです」

この事実に対して、歯のみに働きかけるのが拡大床という装置です。

「つまり、拡大床はあごを広げるのではなく、歯を押して外側に傾斜移動させるものであり、矯正歯科の中ではマイナーな装置という位置づけです。治療後に後戻り(元の位置に歯が戻ること)が起きやすいのも、拡大床を使用することで舌と頬の筋肉のバランスを崩すことになるためです」

傾斜移動を解説する写真

では、拡大床を使っても、あごが広がることはないのでしょうか?

「その質問にお答えするために、まずは成長発育についてご説明しましょう。人間の歯は、乳歯から永久歯へと生えかわりますね。具体的には、生後6か月で歯が生えはじめ、2歳半で乳歯列が完成し、6歳くらいで乳歯の後ろに第一大臼歯が生え、その後、さらに後ろに第二大臼歯が生えてきます。乳歯列の後ろに永久歯が生える、ここがポイントです。つまり、私たちのあごは成長とともに大きくなりますが、それは横に広がるのではなく、主に後ろに広がるのであって、横幅はせいぜい2~3ミリしか大きくならないのです。拡大床はあごを広げるわけではないので、使ったとしても同じことです」

●あごの成長変化
あごの成長変化

「そのため、矯正歯科を専門に行っている歯科医は拡大床を補助的に使うことはあっても、治療の基本に据えることはありません」

中村先生は、矯正歯科治療の社会からの信頼回復のためにも、拡大床の治療は歯科矯正学ならびに矯正歯科治療について、しかるべき研究機関で5年以上にわたって研修し、高度な診断と治療能力を備えた矯正歯科医が行うべきだと強調します。

にもかかわらず拡大床による被害は頻発しており、拡大を続けて反対咬合(受け口)になったり、5年以上続けて拡大したあげくに結局抜歯をしたりと、様々な問題が出てきているのです。

★次のページでは、拡大床による不適切治療の2事例をご紹介!


Vol.18 知っておきたい! 拡大床を使った矯正歯科治療の 危険とトラブル

知っておきたい! 拡大床を使った矯正歯科治療の 危険とトラブル

矯正歯科治療のトラブル、その原因は?

■拡大床による安易な治療なトラブルの要因

かつてよりポピュラーになってきた矯正歯科治療。しかし、その一方で、近年治療によるトラブルが目立つようになってきたといわれています。「長期間治療しても、いっこうによくならない」、「治療後、元の状態よりひどい歯並びになった」......etc.

咬み合わせを整える目的で始めた矯正歯科治療で、いったいなぜ、そんなことが起こるのでしょうか? 矯正歯科専門開業医の団体である公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会(以下、矯正歯科医会)では、トラブルの原因は矯正歯科のトレーニングを積んでいない歯科医師による"安易な「拡大床(かくだいしょう)」の使用"にあると警鐘を鳴らしています。

ちなみに、拡大床とは薄い入れ歯のような装置に、拡大ネジ(スクリュー)を埋め込み、そのネジを回すことで歯列を広げる、矯正歯科治療に用いる拡大装置のこと。

「拡大装置には、自分では取りはずしができるものや拡大ネジを使うもの、ワイヤーの力で拡大するものなど、様々なタイプがあります。拡大装置のひとつである拡大床とは、あごを広げるものではなく、歯を外側に傾斜させて歯を拡大させるために使うものです。そのため適応症は限定され、どのような患者さんにも使える万能の装置では決してありません」と話すのは、矯正歯科医会 前広報理事の三村 博先生。

さまざまな拡大床
さまざまな拡大床写真提供/(株)アソインターナショナル

にもかかわらず、「あごを広げるから歯を抜かずに治療できる」、「取りはずしができて人目につかない」、「簡単に治る」、「治療費が安い」......といった謳い文句で歯科医からすすめられ使用した結果、歯並びが改善しないばかりか「かえって症状が悪化した」、「装置をはずしたら元に戻った」というトラブルが続発しているのです。

実際、矯正歯科医会が400人の会員に対して行ったアンケート(2016年7月7日実施)によると、回答した137人の約8割が「不適切な拡大をされた患者さんを診察した経験を持つ」と回答。しかも、その大半は「拡大床によるもの」だと答えています。

円グラフ

■どこで治療するかに慎重になるべき

矯正歯科医会 前会長の富永雪穂先生は、標準治療から大きく逸脱した不適切な治療の背景には、経験不足のまま矯正歯科治療を行う歯科医の存在があると指摘します。

「本来、矯正歯科治療は患者さん一人一人に合わせたオーダーメイドの治療であり、その方の状態に合った適切な治療を行うためには、矯正歯科治療についての専門教育と研修、経験が不可欠です。しかし、昨今は口腔機能の向上という医療の目的よりも、治療を商業的に捉える診療所があり、わずか1日の矯正歯科セミナーで矯正歯科治療を学び、適切な検査や診断なしに既成の装置(咬合誘導装置)を使って、簡単に治療を行ってしまうケースがあるのです。このことを、我々は非常に憂慮しています」

上記に加えて、歯科医の免許があれば、たとえ専門教育や研修を受けていなくても矯正歯科の看板を掲げることができるという日本の制度的な問題も、理由のひとつだといえるでしょう。

こうした状況下で安心して治療を受けるためにはいったいどうすればいいのでしょうか?富永先生は、"どこで治療するか"に慎重になることがまず大切だと話します。

「日本中で歯科医師は約10万人います。その中で、矯正歯科治療に知見のある歯科医師は日本矯正歯科学会の会員として約6600人。なかでも、きちんとした標準治療を行える矯正歯科医は、学会の認定医である約3100人だといえます」

適切な矯正歯科治療が行える専門性の高い歯科医師は、なんと全歯科医師の約3%のみ! 歯科医ではあっても、そのキャリアも技術も千差万別。それを踏まえ、治療先は矯正歯科学会認定医の資格を持つ矯正歯科医を目安に据えるのがおすすめです。

★次のページでは、拡大床による不適切治療の事例をご紹介!

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