|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

矯正歯科医会は、正しい矯正歯科治療に取り組んでいます

矯正歯科医会は、正しい矯正歯科治療に取り組んでいます

矯正歯科治療の正しい理解を促すことに努めているのが、今回トレンドウォッチにご協力いただいた稲毛会長を筆頭とする矯正歯科医会です。今回のトレンドウォッチの最後に、この団体のスタンスや社会に向けての取り組みについてご紹介しておきましょう。

●国内最大のオルソドンティストの集まりとして
矯正歯科医会は、日本で唯一45年以上にわたり活動している矯正歯科専門開業医の団体であり、矯正歯科分野で最初に認められた公益法人です。

「よい咬み合わせときれいな歯並びによって心身の健康を育むこと」を目的に、「見た目の美しさ」だけでなく、咬み合わせの改善や咀嚼(そしゃく)機能の向上、口全体の健康増進など総合的な「正しい矯正歯科治療」に取り組んでいます。

 会のメンバーになるには、矯正歯科治療を専門に行っている開業医であることに加えて、所在地区の会員1名を含む会員3名以上の推薦が必要です。こうした精査のもとに組織された矯正歯科医会は、会員一人ひとりが矯正歯科治療の専門家として豊富な経験と責任のうえに立つ「オルソドンティスト(矯正歯科医)」であることを自らに課し、日々患者さんに向き合っています。

●こんなことに取り組んでいます
矯正歯科医会の社会に向けた様々な取り組みの中から、今回は3つに絞ってご紹介します。

★取り組み①マウスピース型の矯正装置に使用基準を設定
近年、取り外しのできるマウスピース型矯正装置を使った治療が増えており、それに伴うトラブルが増加しています。このマウスピース型矯正装置は、一般的なマルチブラケットとは異なり、特殊な加工技術などを用いて海外で製作されるもので、日本の薬機法(※)で承認されたものではありません。そのため、本来は安易な使用は控えるべきなのです。
※医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。

★そこで矯正歯科医会では……
患者さんへの使用にあたっては、歯科医師が患者さんにマウスピース型矯正装置についての情報提供をしっかり行い、患者さんのご理解と同意を得たうえで使用する、という基準を設け、その徹底に努めています。

★取り組み②会員診療所のホームページにガイドラインを設定
医療法の見直しに伴い、今年6月1日より医療機関のホームページが医療広告規制の対象となりました。それに伴い、ホームページに表示できる項目・内容は細かく制限され、抵触する場合には、是正命令や罰則が科せられます。例えば、歯科分野であれば「全く痛くない治療」「歯を抜かない治療」「日本有数の実績を有する医院」「最高の治療を行う」などの表現や、患者さんの主観に基づく治療の内容あるいは効果に関する体験談、矯正装置や医療機器の名称(メーカー名も含む)、効能・効果、性能等の記載などです。

★そこで矯正歯科医会では……
こうした現状に対し、早い段階から会員に必要に応じたホームページの改変を呼びかけています。また、患者さんの紹介を生業とするようなホームページへのリンクがないこと、資格認定の掲載には認定を行った学会名を必ず掲載すること、標榜可能ではない診療科名を使用しないことなど15項目のリストを作成し、徹底に努めています。

★取り組み③患者さんの転医の際、治療費の精算目安を設定
患者さんが矯正歯科治療中に転居などで診療所を変わらざるを得ない場合や、患者さんから治療の中止の申し出があった場合には、歯科医師側は治療の進行具合によって、治療費を精算および過剰に支払われている分の返金をする義務があります。

★そこで矯正歯科医会では……
転医や中止の際、患者さんに返金などがスムーズに行えるよう精算額の目安を制定しています。診療報酬の精算は、おおよその治療内容の達成度や、すでに経過した期間、今後の内容などを考慮したうえで最終決定を行います。

ほかにも、矯正歯科治療のことをわかりやすくまとめた書籍の発行やインターネット上での相談窓口の開設など、正しい矯正歯科治療への啓発のために様々なことを行っています。

矯正歯科医会については、こちらをご覧ください。

矯正歯科治療で”噛める”ようになった!2つのケースをご紹介

矯正歯科治療で”噛める”ようになった!2つのケースをご紹介

ここでは、不正咬合でしっかり噛めなかった方が、矯正歯科治療を受けて咬み合わせが改善した2つのケースをご紹介します。

■症例1:前歯でものが噛み切れなかったAさんの場合
最初は、開咬だったAさん(初診時19歳)のケースです。
彼女は、咬んだときに上下の前歯が咬み合わず、上の前歯と下の前歯に隙間ができてしまっていました。

口を閉じていると一見問題がなさそうですが、日常生活では不正咬合のため、「サシスセソ」の発音がうまくできず、サンドイッチや麺類なども前歯で噛み切ることができない状態でした。
治療前(19歳9か月)
そこでマルチブラケットをつけて矯正歯科治療を開始。治療では上下のあごの関係を改善するために「顎間(がっかん)ゴム(別名:エラスティック)」も併用しました。
また、治療中には舌や唇など、口のまわりの筋肉を強くしてバランスをよくするために「筋機能療法」というプログラムも併せて行うことで、舌の正しい使い方も覚えていきました。

治療終了後、A子さんの咬み合わせは安定し、前歯でしっかりとものを噛み切ることができるようになりました。写真を見ても、口もとの違いは一目瞭然ですね。
治療後(22歳1か月)

■症例2:咬み合わせると痛みもあったBさんの場合
続いて、2例目は出っ歯(上顎前突)だったBさん(初診時6歳)の場合です。
彼女は前歯が出ていただけでなく、上の2本の前歯に隙間がある「正中離解」という状態で、さらに下の前歯が上の歯ぐきに食い込んで痛いという症状もありました。

そのため、Bさんのお母さんによると、前歯でものがうまく噛み切れず、特に硬めのお肉など、噛み応えのあるものは食べたがらないということでした。
初診時(6歳11か月)
そこで矯正歯科治療では、あごの骨の発育を利用して、咬み合わせを改善することに。
永久歯が生え揃うまでの第Ⅰ期治療では、「アクチベーター」という取りはずしのできる口腔内装置を一定期間つけてもらい、深すぎる咬み合わせを改善させ、下あごの骨を前方に誘導していきました。
第Ⅰ期治療開始時(10歳7か月)
その後、永久歯が生え揃った段階でスタートした第Ⅱ期治療では、上あごに「ヘッドギア」という、やはり取り外しのできる頭にかけるバンド装置を一定期間つけてもらいながら、マルチブラケットで歯列を本来の場所へ動かしていきました。
第Ⅱ期治療終了時(12歳7か月)

動的治療の後、「リテーナー」という、動かした位置で歯を安定させる装置をつけての保定期間を経て、Bさんはよく噛める、安定した咬み合わせを手に入れることができました。

【まとめ】

心身の健康増進のためには、よく噛める健全な歯並びと咬み合わせが必要です。
そして、口や歯が消化器官の入り口としての本来の役割を果たすように治療を行うのが、矯正歯科治療の担う役割です。


★次のページでは、日本臨床矯正歯科医会の取り組みについてご紹介!

“よく噛める”には理由があります

よく噛める”には理由があります

■よい歯並びと咬み合わせの5つの基準
では、一体どのような歯並び・咬み合わせであれば、食べものをしっかり噛むことができるのでしょうか?
その特徴は、次の5つです。


1)おおらかなU字型の歯並び
2)上下の歯並びの中心線が一致している
3)前歯でサンドイッチや麺類がすっと噛み切れる
4)上の1本の歯が下の2本の歯の間に噛み込む(下の1本の歯が上の2本の歯の間に噛み込む)
5)サイコロ状の肉を左右の奥歯でしっかり噛める

具体的に見ていきましょう。

●おおらかなU字型の歯並び
日本人はアジア人の中でも歯が比較的大きく、その大きな歯に適した歯列がU字型です。上あごや下あごを口の中から見たとき、前歯の飛び出しや奥歯の倒れこみなどなく、きれいなU字を描いているのがよい歯列です。

●上下の歯並びの中心線が一致している
上下それぞれの前歯の中心線を「正中線」といいます。これが上下でほぼ一直線になっていて歯の正中線が顔の中心線上にきていることが大切です。

●前歯でサンドイッチや麺類がすっと噛み切れる
ものを噛み切るという前歯の役割を果たすには、歯を自然に咬み合わせたとき、上の前歯が下の前歯に、水平・垂直方向で約2ミリずつかぶさっているのが基本です。

●上の1本の歯が下の2本の歯の間に噛み込む(下の1本の歯が上の2本の歯の間に噛み込む)
左右両側の犬歯から奥の歯が、上あごの歯1本に対して、下あごの歯2本の割合でバランスよく咬み合っている状態が「一歯対二歯(いっし・たい・にし)の咬み合わせ」です。このとき、上下左右の奥歯が隙間なくしっかり咬み合っていることがポイントです。

●サイコロ状の肉を左右の奥歯でしっかり噛める
左右の奥歯でものが噛めるということは、食べ物をすりつぶすという本来の働きができているということです。逆に左右どちらか片方でだけ噛んでいると噛まない側の自浄作用が失われ、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。

■では、よくない歯並びとは?
よい歯並びの基準とともに、正しく咬み合わせることができない歯並びについても知っておきたいもの。歯科医学的には、それを「不正咬合(ふせいこうごう)」といいます。

不正咬合になる原因は、あごや歯の大きさといった遺伝的なものと、悪習慣などによる後天的なものとに分けられます。こうしたよくない状態をそのままにしておくと、機能面での問題が起こりやすいだけでなく、笑顔に自信がもてなかったり、歯に対するコンプレックスから人間関係でも消極的になりがちです。また、発音が不明瞭になりやすいほか、歯をしっかり食いしばることができないために、運動能力の低下にもつながるとされています。

なお、不正咬合の状態や程度は人それぞれで、なかには出っ歯で歯がデコボコしているなど、複数の問題を抱えていることも少なくありません。

以下に、その代表例をご紹介しましょう。

前後的な問題
●デコボコ(叢生)
文字通り、歯がデコボコに生えたり、歯の生え方が不ぞろいだったりする状態。あごが小さい現代人に多い不正咬合。八重歯もその一種です。

●受け口(下顎前突)
咬み合わせたとき、下の前歯が上の前歯より、連続して3本以上前側にある咬み合わせ。上の歯のかぶさりがないため、下の歯の先端から根もとまですべて見えます。

●出っ歯(上顎前突)
上の前歯や上あごそのものが前方に出て、下あごが後退している状態。あごの骨に問題がある場合と、歯だけが前に出ている場合とがあります。

左右的な問題
●交叉咬合
通常、上の歯は下の歯を覆っていますが、それが逆になっている咬み合わせ。奥歯に交叉咬合があると、正中線も一緒にずれていることがよくあります。

●すきっ歯(空隙歯列)
歯と歯の間が空いている状態。歯そのものが小さかったり、歯に対してあごが大きいことなどが原因で起こりますまた、歯があごの骨の中に埋まって出てこない「埋伏歯(まいふくし)」や、もともと歯の本数が足りない「先天性欠如歯」があることで起こる場合もあります。

上下的な問題
●過蓋咬合
「かがいこうごう」と読みます。これは上の前歯が下の前歯に深くかぶさっている咬み合わせのこと。なかには、下の前歯が上の前歯に隠れてしまって見えないケースもあります。

●開咬
「かいこう」と読みます。これは奥歯をしっかり咬み合わせたとき、上下の前歯が咬み合わず、隙間ができてしまう状態。そのため歯ぐきが乾きやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まります。また、咬み合う歯が少ないため、顎関節症が発生しやすくなります。

■やってみよう! 歯並びと咬み合わせのセルフチェック
歯並びのよしあしを見極めるポイントをおさえれば、自分でもある程度の確認は可能です。鏡を見ながら、ご自分や家族の歯並びをチェックしてみましょう。そして、セルフチェックに当てはまる箇所が気になるようなら、臆せず矯正歯科の専門開業医のもとを訪ねてください。

★次のページでは、矯正歯科治療で噛めるようになった2つのケースをご紹介!

vol.22 咬み合わせから考えよう! 食育と健康


咬み合わせから考えよう! 食育と健康

「食育」の実践には、よく噛める自分の歯が不可欠です

■歯と口は生命活動にかかわっている
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食事をとる。おいしいと感じる。会話を交わす。深呼吸をする……。普段何気なくしているこれらの行為を改めて見直すと、いずれも私たちがすこやかに生きていくうえで不可欠なものだとわかります。

では、こうした行為すべてにかかわっている器官は何でしょうか?
それは口であり、歯です。
以前のトレンドウォッチでもご紹介しましたが、歯や口は、私たちの日常生活の中で生命活動、社会活動にかかわる大切な5つの役割を担っているのです。


歯と口の5つの役割

●食事をつかさどる
●発音をつかさどる
●感覚(味覚・触覚・温度覚)をつかさどる
●感染を防ぎ、健康を維持する
●呼吸をつかさどる

■食育の前提は噛めること
さて、歯と口の役割の筆頭にあがっているのが”食事”ですが、近年、社会の変化とともに食生活をめぐる状況は大きく変化しています。偏食、過食、無理なダイエット、拒食症、孤食等々……。そこで注目されているのが「食育」です。

食育とは、食事や食物に関する知識と選択力を身につけ、健全な食生活が送れるようにするための教育のことで、2005年に施行された「食育基本法」第二条にはこのように定義されています。

「食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行わなければならない。」

これに対し、矯正歯科専門開業医の団体・公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(以下、矯正歯科医会)の稲毛滋自会長は異議を唱えます。

「健全な食生活をすれば、心身が健康になるとありますが、それだけでは不足しているのではないでしょうか」

「なぜなら、三世代が一緒に食事をしたとしても、例えば祖父母の入れ歯が合わず、食べものをしっかり噛むことができなければ、決して健やかな状態とはいえません。笑顔で食卓を囲むには、食育基本法で定められている以外に、よく噛める歯が大事だと思います」

口に運ばれた食べものは、まず前歯で噛み切られ、奥歯に運ばれて唾液と混ざり合いながら小さくすりつぶされ、嚥下(えんげ)されます。こうした一連の働きをスムーズに行うには、バランスのとれたよく噛める歯並びと咬み合わせが不可欠だというわけです。

■よく噛むことには8つの効用がある
稲毛会長は、噛むことが心身にもたらすメリットとして、次の8つを挙げて説明します。

噛むことの8大効用

●食べすぎを防ぐ
●味覚の発達を促す
●発音を明瞭にする
●脳の働きを活発にする

●歯の病気を防ぎ口臭を少なくする
●発がん作用を抑える
●胃腸の働きを促す
●全身の体力向上とストレス解消

 

出典:公益財団法人8020推進財団「めざそう8020」より

「まず、よく噛むと脳にある満腹中枢が働いて、適度な量で満腹を感じるようになります。つまり、よく噛むことこそダイエットの基本というわけです。また、よく噛むと食べもの本来の味がわかるようになり、味覚の発達に役立ちます。さらに、きれいな歯並びで口をはっきりと開けて話すことは、きれいな発音にもつながります」

「そして、口のまわりの筋肉も使うため、表情がとても豊かになります。噛むための運動は脳細胞の働きを活発にし、噛むことで唾液がたくさん分泌され、口の中をきれいにして口臭の発生も減少させるという効果もあります」

「ほかにも、唾液に含まれる酵素には発がん物質の発がん作用を消す作用があるとされ、現在、研究が進められていますし、唾液の中にある消化酵素が噛むことでたくさん分泌されて胃腸の働きを促してくれます。加えて、よく噛むことによって力がわき、日常生活への自信を生むという精神面での効果も期待できます」

食べものをしっかりと噛むことは、心身を活性化させるための重要な働きを担っているわけですね。

こう考えると、よく噛むことこそ食育の基本。自分の歯で毎日の食事をおいしく味わいながら食べることは、心と体の健康を保つ第一歩であり、家族や仲間と食事を楽しみながら、ゆっくりよく噛んで食べることが生活の質(QOL)を高め、人生をより一層豊かなものにしてくれるのです。

★次のページでは、よく噛める歯並びについてご紹介!