子どもの矯正歯科治療、始める前に”ココ”をチェック!|vol.13 子どもの矯正歯科治療を始める前に:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

子どもの矯正歯科治療、始める前に”ココ”をチェック!

「抜かずに治療できる」は安易に信じてはダメ!
■精密検査もせずに装置を装着するのは「あり得ない」こと
“不適切な矯正歯科治療”の現状について、矯正歯科医会の会長である富永雪穂先生は、こう話します。
「”不適切な治療”として目につくのが、矯正歯科治療に入る前に必ず行うべき精密検査と、それにもとづく診断・説明が患者さんに対してきちんと行われないまま、安易に治療を開始しているケースです」
要は、踏むべきプロセスを踏まずに治療に入ることで、顔だちや歯列のアンバランスを招いたり、上下の歯がきちんと咬み合わないというトラブルにつながるというわけです。
それだけでなく、矯正歯科が専門ではない歯科医が経験不足のまま治療するケースが多いこと、非常勤歯科医が担当するなど診療態勢が整っていない環境での治療も原因となっているのだとか。その背景には、一般歯科の過当競争の激化や、「抜歯しなくても歯を矯正できる」といった安易な矯正歯科治療法の喧伝(けんでん)、そして「できれば歯を抜きたくない」という患者心理への迎合があると、富永先生は分析します。
「矯正歯科治療は専門性の高い分野で、矯正歯科治療だけを行う専門家は患者さん一人一人の上下の歯のバランスや歯並び、咬み合わせの状態を診て適した治療を行いますが、綿密な検査や診断を行うことなく安易に治療してしまうと、後で大きな問題を招くことがあります」
治療を始める際には、患者自身が正しい知識を持って矯正歯科医選びをすることが大切なのです。
■「あごは広げられる」の誤解を知っておこう
また、同会の前学術理事、稲毛滋自先生もこう話します。
「よく『床(しょう)矯正という装置をつけてあごを広げれば、歯を抜かなくても矯正歯科治療ができる』など安易にいわれることがありますが、このような医学的根拠を欠いた説明にも大きな問題があると思います」
床矯正装置とは、口の中につけるプラスチック製の床部分(レジン床)と、表側の歯を抑える金属線でつくられた入れ歯のような形をした装置のこと。レジン床にバネやネジを埋め込むことで歯を動かすこの装置にはいろいろな種類がありますが、主に歯列を横に広げる目的で使われます。
「あごは広げられる」の誤解を知っておこうつ

「成長期のお子さんの場合、上あごは床矯正の装置をつけることで歯列はある程度広げることはできても、あごそのものは広がりません」
このことはすでに国内外の研究者が論文で報告しているのだといいます。
「上の歯列を広げるには急速拡大装置という固定式の装置を用いる必要があります。また下あごは骨の構造的に拡大できません。つまり、下あごを広げようとしてもあご自体は広がらず、単に下の歯列を扇のように傾斜させてしまうことになるのです。成長が止まった成人の患者さんならもちろん、上あごも広がりません」
「あごは広げられる」の誤解を知っておこう
それが現実であるにもかかわらず、”床矯正装置による非抜歯治療”をうたっている歯科診療所があること自体が問題だといえそうです。
「床矯正装置そのものに問題があるのではなく、何でもかんでも床矯正装置で治ると言うことに違和感を覚えるのが正直なところですね」
無理に歯列を拡大することで、歯根(歯の根っこ)が歯槽骨(歯を支える骨)からはみ出してしまったり、咬み合わせが不安定になったり……。特に、乳歯と永久歯が混在する混合歯列期は、あごの成長を見ながら歯を動かすことが求められます。これには高度な臨床的判断が必要とされるため、矯正歯科治療を専門に行う歯科医のもとでの治療が基本といえるのです。
■非抜歯にこだわるよりも、もっと大切なことがある
ここで紹介するA子さん(30歳)も、歯列拡大による非抜歯治療を続けることで歯にダメージを受けた一人。稲毛先生いわく、
「この方の場合、歯を抜かずに矯正歯科治療ができると主張する歯科医のもとで歯列の拡大を続けた結果、下あごの2本の歯の根っこが歯を支える骨から出てしまい、さらにそこから膿も出てきてしまいました。ご本人が『これはおかしい』と思い、大学病院を訪ねたときには、すでに歯髄(歯の神経)が死んでしまっており、残念ながら抜歯せざるを得ない状態だったのです」
トラブルを抱えての転院時
結局、A子さんは歯髄が死んだ2本の歯を含め4本抜歯して咬み合わせを整えることで、バランスのとれた状態を獲得したのだとか。
矯正歯科専門開業医のもとでの治療後
そんな事態を招く背景には、抜歯についての誤解があると稲毛先生は話します。
「日本における一般的な歯科治療では、できるだけ歯を残すのがよい治療の条件とされているため、矯正歯科治療でも『歯を抜かないことがよい治療』だと考えがちですが、実はそうではなく、長期的安定の観点からみて、永久歯の抜歯が必要な症例は実はたくさんあります。あごが細くなっている現代の日本人は、特にその傾向が強いといえますね」
たとえるなら、8人掛けのベンチに10人座ろうとすると一人一人が窮屈で不安定な座り方になるように、あごのスペースに安定した形で歯を収めるためには、抜歯が必要となる場合もあるということ。つまり、必要な抜歯を行うことで、残った歯を長持ちする状態に保つことが”歯をできるだけ残す”ことにつながるわけです。
では、矯正歯科を専門に行う診療所では、治療の前にどのような検査をするのでしょう?
★次のページでは、矯正歯科で行う検査についてご紹介!
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