「上顎前歯が突出した小児に対する早期治療(※)」に対する本会の見解

先般「上の前歯が出ている子どもは、永久歯が生えそろうまでは、矯正歯科治療を行わないことを強く推奨します」としたガイドラインが発表されました。すでに矯正歯科治療中、あるいはこれから治療を予定されているお子様のご家族の中には混乱や不安を感じる方々もおられるようです。しかしながら、実際に日本のみならず海外でも、上顎前歯が突出した小児に対する早期矯正治療は行われており、良好な結果を得ています。そのためには矯正歯科医が充分に精査診断し、早期治療の必要性と効果を適切に診断した上で長期的な治療計画のもとに治療を行うことが重要です。

前述のガイドラインは過去に発表された上顎前突の治療に関する科学論文の医学的データを基に作成されましたが、矯正歯科の分野はデータを得るための条件の統一等が難しく、現時点では十分な根拠(ランダム化比較試験に基づくエビデンス)がないことも明らかになっています。特に日本人の研究結果を掲載した科学論文は不足しており、この状況から得られたガイドラインは、わが国の矯正歯科治療の実態にはそぐわないと考えざるを得ません。
矯正歯科治療の開始時期は矯正歯科医が患者さん一人一人の症状や心理的側面、生活背景なども見極めて個別に判断する必要があります。そのため「この症状に対してはこの時期に治療を開始しなければならない」といったことはありません。多様な病態を持つ上顎前突をひとくくりに考えずに、矯正歯科医による十分な精査・診断により、その必要性、治療開始時期が選定されるべきです。従って専門教育研修を受け、豊かな経験を有する矯正歯科医が、適切な検査の後に早期治療の必要性があると診断し、十分な説明と患者と保護者の同意を得た上で行うのであれば、上顎前歯が突出した小児に対する早期矯正治療を行うことに問題はないと考えています。
一方、巷で行われている「早期治療」と称されるものには残念ながら十分な検査や矯正歯科医による診断、長期的な治療計画に基づかないものも見受けられます。現在受けられている治療の必要性と治療開始時期等に関して不安を感じている皆様には、本会会員をはじめとする矯正歯科専門開業医あるいは大学病院矯正歯科でのご相談をお勧めいたします。

※早期治療:乳歯の時期や乳歯と永久歯が混じり合う時期に、あごの成長を見ながら咬み合わせやあごの成長のコントロールなどを行う矯正歯科治療。

公益社団法人日本臨床矯正歯科医会のオルソドンティストがめざす「矯正歯科治療」とは

心身の健康を達成するために私たちが目指す"矯正歯科治療"とは-

矯正歯科治療は、歯の位置やあごの骨を長い時間かけて少しずつ変化させ、悪い歯並びを治し、よい咬み合わせを実現させていきます。それは顎や顔を構成する骨格が調和のとれている状態で、口腔機能の改善と向上を伴うことを前提としています。その結果として、審美的な歯並びや口元、顔貌になることが良質な矯正歯科治療に求められるものです。
すなわち

よい咬み合わせきれいな歯並び
感じのよい口もと口の健康の増進
治療後の安定性

をトータライズして獲得することであり、見た目のきれいさだけではなく機能が伴い、さらには生涯にわたってきれいな歯並びと健康を維持できることを目指しています。矯正歯科治療が美容を目的にしていると思われることは、会員の本意ではありません。

日本臨床矯正歯科医会「新・東京宣言」

国民の心身の健康とその生涯維持には、健康は口腔を獲得する必要があり、そのために適切な矯正歯科治療は重要な役割を果たします。その認識に立って本会会員は、臨床的および倫理的判断に則り、患者さんの立場に立った矯正歯科医療を実践します。また保健・教育活動にも積極的に参加し、矯正歯科治療の社会的認知と共通理解が得られるように努め、国民と医療を共有していくことを宣言します。

1 私達は、矯正歯科専門開業医として自己研鑽に努め、その専門的知識・技術をもって良質な矯正歯科医療と安心できる医療態勢を提供することで、国民の健康増進、生活の質の向上に貢献します。
2 私達は、広報活動を通して、矯正歯科医療の正しい情報を社会に広く伝えます。
3 私達は、国内外の矯正歯科医や矯正歯科に関係するすべての職業人と連携し、矯正歯科医療の発展を通して社会に貢献します。
4 私達は、医療人としての倫理観に基づき,法令遵守に努め、患者さんの同意を尊重して、国民から信頼される矯正歯科医を目指します。

※平成25年2月6日東京で開催された日本臨床矯正歯科医会創立40周年記念大会にて「新・東京宣言」を採択しました。


安心して治療を受けていただくための6つの指針
(矯正歯科診療所が備えるべき6つのポイント)

適切な矯正歯科治療を受けていただくために、2015年、本会では患者自身が信頼できる矯正歯科を見極めるための"受診時の目安"として、6つの指針を提言として掲げました。

重要:(1)頭部X線規格写真(セファログラム)検査をしている
セファログラムは診断のグローバル・スタンダードで、特に子どもの患者さんでは顎顔面の成長バランスや成長方向、量の予測をするために不可欠な検査です。

重要:(2)精密検査を実施し、それを分析・診断した上で治療をしている
矯正歯科治療を行うためには、臨床検査として①口腔内検査 ②顎機能と咬合機能の検査 ③顎のプロポーション検査 ④筋機能の検査、また、診断資料の分析として①模型分析 ②頭部X線規格写真の分析 などを実施した上で診断を行うことが不可欠です。

重要:(3)治療計画、治療費用について詳細に説明をしている
矯正歯科では、検査結果を詳細に分析した上で診断を行い,治療計画を立案します。
治療計画については、わかりやすい治療のゴールやそのプロセスを患者さんに示しながら、それぞれの患者さんに適した治療装置とその効果,治療期間、第二期治療の可能性(子どもの場合)、保定、後戻りの可能性や治療のメリット・デメリットおよび抜歯・非抜歯について説明を行います。
治療費用についても、治療費、調節料、支払い方法(一括・分割)、装置が壊れたときの対応、転医あるいは中止する場合の精算についても詳細説明を行い、患者さんの同意を得てから治療を行います。

重要:(4)長い期間を要する治療中の転医、その際の治療費精算まで説明をしている
本会には治療中に転居等で診療所を変わらざるを得なくなった患者さんに、転居先にできるだけ近い矯正歯科を紹介する「転医システム」があります。
【紹介先】当会所属の矯正歯科専門開業医
     治療費の過不足も当会の取り決め目安に沿って精算

推奨:(5)常勤の矯正歯科医がいる
常勤の矯正歯科医がいることは、以下のようなメリットにつながります。
・治療において画像診断ができる撮影機器などの環境・設備が整っている
・矯正装置が取れてしまったなど器具に不具合があっても、すぐに対応できる
・同じ担当医による一貫治療が行える

推奨:(6)専門知識がある衛生士、スタッフがいる
矯正歯科への豊富な経験と知識があるスタッフがいることは、以下のようなメリットにつながります。
・矯正歯科医の指導監督のもとに、患者さんへのさまざまな対応が可能となる
・矯正装置への口腔衛生指導が行える
・治療中の食事指導が行える

本会は、より多くの皆様に矯正歯科治療についての正しい知識を身につけていただくとともに、歯科全体における矯正歯科医療の向上と自己研鑽に努め、質の高い治療と安心を提供していきます。

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