Interview
患者さんの数だけ治療法がある。
それが専門医院の奥深さです。
吉里有香さん(矯正歯科 歯科衛生士/28歳)
■専門的な技術を備えているのが矯正歯科の歯科衛生士
「私自身、かつて治療経験があるせいか、矯正に興味がありましたが、最初は幅広く技術を身につけたいと思い、学校卒業後は矯正治療もしている一般歯科に就職しました」
と話す吉里さん。新卒で入ったその歯科医院には7年間在席し、2015年春から矯正歯科専門医院へ。その理由をこう話します。
「かつていた一般歯科では歯科衛生士は器具を用意したり、終わった後の器具を片付けたり消毒したりする程度。もっと矯正治療に関わりたいと思ったのが、転職した理由です。実際、矯正歯科に移ってからは、石膏で模型をつくるための歯型をとる『印象採得(いんしょうさいとく)』や装置の使い方の説明など、歯科衛生士が患者さんと関わることがすごく多くて、そこに驚きと喜びを感じています」
石膏で模型をつくるための歯型をとることだけでも、以前とは全然違うという吉里さん。
「一般歯科では詰めものやかぶせものをつくるところだけ部分的に歯型をとることが多かったのですが、矯正歯科では上唇小帯(じょうしんしょうたい/前歯の中央にあるスジ)や歯茎の奥まで入れて歯列全体をしっかり精密にとるのが基本。それだけ歯列全体と骨を捉えているんだなと感じますね」
■矯正歯科治療は、まさにオーダーメイド
そんな吉里さんが大切しているのが、患者さんとの心の通った交流だといいます。
「治療中は患者さんの協力がなくては進まないことがたくさんあります。例えば、取りはずしのできる装置の場合、1日の決められた時間分の装着がないと思ったように歯が動かず、治療が長引いてしまいます。そんな事態を防ぐためには、患者さんの1日の過ごし方をうかがって、その中から装置をつけられる時間帯を見出していくなど、表面的ではない交流が大切になります。もちろん確実に装置を使ってもらえるよう、つけ方・はずし方の練習なども患者さんと一緒に行っていますよ」
また、低年齢の患者さんには、実際の使い方だけでなく、保護者に”今この装置をなぜ使うのか”をきちんと説明し、理解・納得してもらうことを心掛けているのだとか。
「治療が円滑に進むよう全面的なサポートを行うのが、矯正歯科で働く歯科衛生士の役割です。矯正治療は、患者さんの数だけ治療法があるもの。私たち歯科衛生士も治療についての知識を備えて患者さんと交流することで、よりよい治療の一翼を担っているのだと自負しています」
矯正歯科には、歯科医、歯科衛生士のほかに受付スタッフがいます(医院によっては歯科技工士を置いているところもあり)。歯科医院の顔となる受付では、患者さんからの電話対応や予約の配置、金銭の授受などがあり、臨機応変な対応が求められます。
矯正歯科で受付を担当する加藤晴香さんは、
「患者さんから質問があったとき、それが専門的な治療内容の場合は主治医や歯科衛生士に確認してから答えています。質問内容によって先生に聞くのがいいのか、歯科衛生士なのかという判断がすぐにつくよう、私自身も必要最低限のことは理解しているつもりです。また、受付スタッフとしては数年にわたる治療期間中、患者さんにとって話しやすい存在でいられるよう、いつも笑顔を心掛けていますね」
患者さんに安心感を与えられるよう、電話に出るときには医院名に続けて自分の名前をいうようにしているという加藤さん。こうした小さな気配りも、治療中の患者さんのモチベーションアップにつながっていそうです。
最近、矯正歯科治療を手がける歯科医院が増えてきているといわれます。しかし、何年、何十年とその道一筋に取り組んできている専門医院には、やはり経験に裏付けられた知識と技術があるのは確か。
特集の最後に、今回の取材を通して見えてきた、矯正歯科の選び方チェックポイントをまとめておきましょう。この記事が、これからの矯正歯科選びのヒントになることを願っています。
1.歯科医の「専門科目」や研修の「経歴」から選ぶ
●日本矯正歯科学会の「認定医」や「専門医」がいる?
→矯正歯科治療の専門知識と診療技術の資格試験をパスして認定された
「認定医」(約2500人)、「専門医」(約250人)は信頼性が高い
●診療科目ごとに専門の歯科医がいる?
→歯科の診療科目は「自由標榜制」。診療科目からだけで判断しない
2.診療所の「形態」から選ぶ
●矯正歯科だけを行っている専門医院?
→診療の一部として矯正歯科治療を行う「一般歯科」より
症例数が5~10倍多いとされる「矯正歯科専門医院」が安心
3.歯科医院の「診療形態」から選ぶ
●矯正歯科医が「常勤」している?
→非常勤の場合は、治療日数が限られ、緊急時の対応ができない場合もある
●セファログラムでの検査はある?
→矯正歯科治療に不可欠な検査。この検査をせずに治療を始めることはあり得ない