vol.28 保護者に知ってほしい! パノラマX線写真でわかる未来:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

vol.28 保護者に知ってほしい! パノラマX線写真でわかる未来

vol.28 保護者に知ってほしい! パノラマX線写真でわかる未来

2021年11月のオンラインプレスセミナーより~保護者に知ってほしい!パノラマX線写真でわかる未来~7~9歳を目安に、歯科でパノラマX線写真を撮りましょう~

公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(会長:野村泰世)では、2021年11月8日(月)、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎口腔機能再建学講座 口腔放射線医学分野講師 大林尚人先生をゲストスピーカーに招き、メディア各社に向けたプレスセミナーを開催しました。今回はその内容を踏まえ、成長期におけるパノラマX線写真検査の大切さをご紹介します。(記事作成 2022年1月12日)取材・文:冨部志保子(編集・ライター)

歯の生えかわり期は口の中の異常を見つける大切な時期

歯の生えかわり期は
口の中の異常を見つける大切な時期

本会会長 野村泰世
本会会長野村泰世

プレスセミナーの冒頭では、本会会長の野村泰世が厚生労働省歯科疾患実態調査(2016年)の結果をもとに、むし歯を持つ人の割合の年次推移を紹介しました。
それによると、5~14歳の未処置むし歯の保有率は、1993年と比較すると、ほぼ半減しています。(表参照)

むし歯を持つ人の割合(乳歯+永久歯:5~14歳)

むし歯が減ること自体は喜ばしいのですが、それが歯科医院を訪ねる機会の減少や「パノラマX線写真」による検査機会の喪失につながると、子どもにとって歯の健康を保つうえでのリスクとなります。

そもそもパノラマX線写真とは、口腔内全体を1枚の写真に映し出すタイプのX線(レントゲン)写真のことで、成長期の子どもの場合、X線写真に写った歯や骨の状態から、後続する永久歯の位置や歯の数の過不足などの確認ができます。
乳歯から永久歯に生えかわる「混合歯列期」は“口の中の異常”を発見する重要な期間。子どものむし歯が少なくなった現代だからこそ、生えかわりが順調かどうかを確認するために、歯科医院を訪ねることが大切なのです。

被曝量も極めて微小。
骨の中の異常を見つけるパノラマX線写真

大林尚人先生
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
顎口腔機能再建学講座 口腔放射線医学分野講師
大林尚人先生

続いて登壇した大林尚人先生は、「パノラマX線写真からわかる病態」というテーマで、口の中に起こりうる異常について症例を挙げて講演しました。
混合歯列期にみられる口の中の異常としては、歯の本数の過不足(過剰歯/かじょうし、埋伏歯/まいふくし、欠損歯/けっそんし)、時期が来ても乳歯が長く残っている、乳歯が抜けたにもかかわらず後続の永久歯が生えてこない(萌出遅延)、ほかの歯が隣から寄って生えてきて本来その場所に生えるべき永久歯のスペースがなくなってしまった……などさまざまあり、なかには歯胚(しはい/歯と歯周組織のもととなる細胞)の嚢胞化や、歯牙腫(しがしゅ/顎の骨に発生する良性腫瘍)が見つかることもあります。

混合歯列期の口の中の主な異常

  1. ●歯の異常(エナメル質の形成不全、歯が小さいなど)
  2. ●歯の本数の異常(萌出遅延、先天性欠如、埋伏歯、過剰歯など)
  3. ●嚢胞
  4. ●歯牙腫

これらのうち、骨の中で起こっている異常はX線検査をしないとわかりません。そのために有効なのが、パノラマX線写真です。

なお、X線と聞くと被曝量が気になるものですが、パノラマX線写真検査の1回あたりの被曝線量は0.004~0.03mSv(ミリシーベルト)。これは医科用胸部X線の1回約6.9mSv、日本人が普段浴びている自然放射線(年間)の約1.5mSvと比べると、かなり少ない量となっています。また、近年は器械のデジタル化によってますます被曝線量は少なくなっています。

★くわしくはこちら(東京都歯科医師会ホームページ)をご覧ください。

症例で解説!
歯の本数や位置などの異常を見つけたとき、
矯正歯科が行うこと

本会学術理事 高橋滋樹
本会学術理事高橋滋樹

続いて本会学術理事の高橋滋樹が登壇し、パノラマX線写真によってどのような異常が発見され、その異常に対してどのような矯正歯科治療が行われたかについて症例をベースに紹介しました。

症例1

萌出遅延が気になり来院。検査によって別の問題がわかったケース

  1. ●Aさん:9歳1か月
  2. ●主訴:左上の前歯が生えてこない

萌出遅延は、混合歯列期によくある症状です。この症例も、パノラマX線写真を撮ると上顎左の前歯は萌出中で問題のないことがわかりましたが、上顎左の⑥(第一大臼歯)の生えてくる方向が悪く、手前にあったⒺ(第二乳臼歯)のスペースが失われて後続する永久歯である⑤(第二小臼歯)が生えることができない状態でした。

★パノラマX線写真を撮る利点

このまま放置すれば⑤(第二小臼歯)の萌出が遅れ、また⑤が生えてくるべき場所が失われていたため、永久歯への完全な生えかわりが困難だったと思われます。

症例1
症例2

永久歯の6本の先天性欠如がわかったケース

  1. ●Bさん:10歳6か月
  2. ●主訴:上の歯が前に出ている(出っ歯)

治療前は、上下左右に8本あるはずの小臼歯が上顎右側に1本しか生えていない状態で、パノラマX線写真を撮ると合計6本の永久歯が生まれながらにない先天性欠如(せんてんせいけつじょ)であることがわかりました。このような多数歯欠損では、将来、補綴治療(ほてつちりょう/入れ歯やインプラントで歯のないところを補う治療)が必要になることが多いため、矯正歯科治療では、保存できる乳歯を残して、すでに生えている永久歯とともに並べ、咬み合わせを整えていきました。

★パノラマX線写真を撮る利点

永久歯の先天性欠如が判明していない状態で乳臼歯が抜けると、その後、隣接する永久歯が移動してしまい、歯列の悪化につながります。また、後続する永久歯がないまま乳歯が抜けて咬合力が加わらなくなると、歯槽骨がやせ、その後そこに歯を動かしたりインプラントを植えたりすることが困難になります。そのため、早期に永久歯の有無を把握しておくことで、今回のように乳歯の脱落直後から歯を移動して歯槽骨のレベルを維持したり、早いうちから将来の補綴治療に備えた治療計画を立てたりすることができます。

症例2
用語解説

先天性欠如とは?
永久歯は上下顎で合計28本あるが(親知らずを除く)、歯の形成異常によって生まれつき歯胚がなく、永久歯が生えて来ないこと。欠損歯を放置すると歯列の悪化につながるため、今後の対応を考えるためにも早期発見が大切となる。
症例3

埋伏過剰歯と歯牙腫が見つかったケース

  1. ●Cさん:10歳10か月
  2. ●主訴:左上の2番目の歯が生えてこない

治療前の検査の中でパノラマX線写真を撮ると、上顎の前歯の根尖(こんせん/歯の根の先端部分)付近に埋伏過剰歯歯牙腫が発見され、側切歯(前から2番目)の萌出を妨げていることがわかりました。そこで治療では、装置をつけて側切歯が萌出するためのスペースを獲得し、さらに側切歯の萌出を妨げていた歯牙腫の摘出と、それと同時に埋伏過剰歯の抜歯を行った上で側切歯を牽引し、埋伏過剰歯の抜歯を行いました。

★パノラマX線写真を撮る利点

パノラマX線写真によって埋伏過剰歯と歯牙腫の発見につながりました。歯牙腫があると、後続する永久歯は生えてきません。早期に発見し、牽引することで歯を正常な位置に誘導できたのは大きな意味があります。

症例3
用語解説

埋伏過剰歯とは?
通常の歯の本数よりも多く形づくられた過剰歯のうち、顎骨の中に埋まっている歯のこと。永久歯の歯列に影響する場合は抜歯が基本。なお、過剰歯は上顎の前歯にあらわれることが圧倒的で、次いで親知らずのあたりが多い。
歯牙腫とは?
歯が形成される過程で生じる良性腫瘍。自覚症状はなく、X線検査によって発見される場合が多い。
症例4

犬歯の萌出異常により抜歯したケース

  1. ●Dさん:12歳3か月
  2. ●主訴:犬歯が変な位置から生えてきた、前歯がぐらぐらする

治療前は上顎右側の側切歯(前から2番目)の上から歯が生えており、また左側の犬歯は生えていませんでした。パノラマX線写真を撮ると、右側の③(犬歯)が斜めを向いて、左側の③(犬歯)は①(中切歯)の上に埋まっており、上顎右側の②と上顎左側の①の歯根部に犬歯がぶつかり、歯の根もとが吸収されてほとんどなくなっていることがわかりました。そこで治療では、歯根吸収されてしまった2本の歯を抜歯し、その空いたスペースに③を萌出させるような矯正歯科治療を行いました。

★パノラマX線写真を撮る利点

成長期に安定した咬み合わせをつくることができました。しかし、もっと早い時期にパノラマX線写真を撮っていれば、前歯2本を失わずに済み、犬歯を本来の3番目の位置に並べることができたと思われます。

症例4
用語解説

歯根吸収とは?
隣りあう歯の根(歯根)のセメント質や象牙質を溶かし、短くしてしまうこと。最悪の場合には歯が抜けることもある。
症例5

含歯性嚢胞が見つかったケース

  1. ●Eさん:10歳2か月
  2. ●主訴:上の歯が前に出ている(出っ歯)

治療前は、下顎が劣成長で上顎前突(出っ歯)の状態でした。パノラマX線写真を撮ると、下顎右の第一乳臼歯の奥に後続する第一小臼歯(前から4番目)に含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)がみられ、同時に著しく前方に倒れ込み、犬歯にぶつかっているのがわかります。
そこで治療では、上下顎の成長バランスを整えるとともに、開窓(歯肉を切開するなどして歯冠の表面を露出させること)をして、第一小臼歯が生える方向を改善するように矯正歯科治療を行いました。その結果、上顎前突が改善されたとともに、第一小臼歯を本来の位置に並べることができました。

★パノラマX線写真を撮る利点

含歯性嚢胞の早期発見につながり、第一小臼歯を抜歯することなく、歯列を整えることにつながりました。

症例5
用語解説

含歯性嚢胞とは?
歯胚を包む袋状の上皮から生じる嚢胞で、ほとんど無症状で骨を溶かしながら大きくなる。含歯性嚢胞があると歯が萌出しないため、嚢胞の摘出もしくは嚢胞を切開して埋伏歯を萌出させる必要がある。

よく噛める安定した歯並び・咬み合わせをつくるために7~9歳を目安に、歯科医院で
パノラマX線写真を撮りましょう!

ご紹介した症例の多くは、永久歯に生えかわる混合歯列期に信頼できる歯科医院でパノラマX線検査を受けたことで、歯の状態を確認し、将来に備えることができています。
仮に検査の結果、問題がなければ将来への安心材料として、また何か異常が見つかれば、その時点から前向きな対処につなげることができます。

パノラマX線写真を撮る年齢の目安は7~9歳。また、検査料金は5,000~10,000円が一般的でしょう(健康保険の適用外となるため、医院によって検査料金が異なります)。予約の際、「パノラマX線検査を希望」と伝えての受診をぜひともおすすめします。