アライナーを使った不適切な矯正歯科治療が増えている|vol.23 アライナーを使った不適切な矯正歯科治療が増えている:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

アライナーを使った不適切な矯正歯科治療が増えている


不適切な矯正歯科治療を防ぐには?

アライナーを使った
不適切な矯正歯科治療が増えている

 

■装置が目立たない反面、留意すべき点があるアライナー
最近、厚生労働省や消費者庁、国民生活センターなどに寄せられる矯正歯科関連の相談の中で、カスタムメイドのアライナー型矯正装置(以下、アライナー)を用いた不適切な矯正歯科治療に関する苦情が増加しています。

このセミナーはそうした事態に警鐘を鳴らす意味で開催されました。
主催した公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(以下、矯正歯科医会)の会長・稲毛滋自先生は、次のように話します。

稲毛滋自先生
「アライナーを用いた矯正歯科治療による相談は、本会が2004年から公式ホームページ内で行っている『矯正歯科何でも相談』にも多数寄せられています。その内容は、『7年経っても治らない』、『追加料金を請求された』など様々です。そこで当会ではその実態を調べるため、会員である矯正歯科医を対象にアンケート調査を実施しました」

「その結果、回答者の3人に一人が、他院でアライナーを用いた矯正歯科治療をしている患者さんからの相談を受けていることがわかりました。こうした中、我々矯正歯科医は、アライナーによる安易な治療で患者さんが不利益をこうむることのないよう、問題点を明確にしたいと思っております」

 

アンケート調査の結果については後ほどご紹介するとして、まずはアライナーとはどのようなものかをご説明しましょう。

アライナーとは、患者さんの口腔内石こう模型や口腔内の3Dスキャニングデータを用いて作成した透明のマウスピース状の装置のこと。そして、アライナーを用いた矯正歯科治療とは、そのアライナーを決められた順番通りに装着し、歯を動かしていく治療法のことをいいます。
アライナー
稲毛先生いわく
「一般的なマルチブラケット法(用語解説①)に対して目立ちにくく、必要に応じて装置の着脱ができることから希望する患者さんが増えているのですが、その一方でアライナーを用いた矯正歯科治療には次のような留意点があるのです」


アライナーを用いた矯正歯科治療の留意点

●効果は装着時間に影響される
●適応症例が限られる
●歯の根もと部分についての情報が欠けている
●咬み合わせ面を覆う形態のため、奥歯が圧下される場合もある
●保険診療には使用できない

用語解説① マルチブラケット法とは?
マルチブラケット法
歯の表面に一つずつブラケットという器具を貼り付け、その溝にアーチワイヤーを通して3次元的に歯を動かす治療法のこと。矯正歯科治療ではもっともよく使われる。

 

■アライナーが適応するのは、軽微な症例のみ
稲毛先生の解説を踏まえながら、留意点の中身をみていきましょう。
●効果は装着時間に影響される
→治療の成果が、患者さんの協力度に大きく左右される

「食事のときなどに外せるというアライナーのメリットは、食後、速やかに歯を磨き、一日20時間以上装着しなければ、歯の動きが遅くなるというデメリットにつながります。要は、治療の成果が患者さんの協力度に大きく左右されるということです」

●適応症例が限られる
→歯の移動が大きい症例などには不向き

「マルチブラケットを使った矯正歯科治療では、大きく動かす歯と動かさない歯を厳密に分け、動かさない歯を固定源にして、動かすべき歯に矯正力をかけていきます。しかし、すべての歯にかぶせて使うアライナーを用いた矯正歯科治療では、動かす部分とそうでない部分を明確につくることが難しく、大きく動かす必要がある症例では目指すゴールに辿りつくことができません」
「そのため、八重歯が目立つような乱ぐい歯や、著しく前歯が前突しているような歯の大きな移動が必要となる症例、さらにはねじれた歯を大きな回転させたり、伸びた歯を押し込んだりする必要がある症例、骨格的なずれが大きい症例などには、アライナーを使った治療は不向きです。同様に、乳歯列期や混合歯列期の成長予測が難しい症例にも適合しません」

アライナーを用いた治療に不適合
このように、歯を大きく動かす必要のある症例は、アライナーを用いた矯正歯科治療に不適合。

●歯の根もと部分についての情報が欠けている
→歯根から動かさなければ意味がない

「歯は、歯根(歯茎に隠れた見えない部分の歯)から歯冠(歯茎の上の見える部分の歯)が曲がっていたり、歯が萌出せずに歯茎の中に埋伏していたりするケースなどが往々にしてあります。つまり、いくら歯を動かそうとしても、歯根部の状態を見ていなければ、うまくいかないことがあるのです」
「こうしたことのないよう、矯正歯科医は単に見えている部分の歯を並べるのではなく、各種精密検査によって歯根部はもちろん、上下のあごの大きさや形、ずれなどを見据えて、その人にふさわしい安定した咬み合わせに整えていきます。一方、アライナーを用いた不適切な治療は、歯冠部だけを見て歯を並べようとしているため、様々な問題が起こってしまうのです」

●咬み合わせ面を覆う形態のため、奥歯が圧下される場合も
→顎関節に影響が出ることもある

「要するに、アライナーは奥歯の咬み合わせの面まで覆ってしまうため、歯を噛みしめたとき、奥歯のあたりが強くなり、噛みしめが強い方の場合はあごの関節に症状が出る可能性がある、ということです」

●保険診療には使用できない
→本来、保険が適用できる場合でも自費診療となる

「そもそも、アライナーは日本の薬機法(用語解説②)で未承認の装置です。そのため、矯正歯科治療で健康保険が適用される先天性疾患をおもちの方や顎変形症の方であっても、アライナーを用いた矯正歯科治療を行う場合は保険適応になりません。また、医薬品副作用被害者救済制度の対象外とのことです」

用語解説② 薬機法とは?
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称。平成26年11月の薬事法の改正に伴い、名称が改められました。

 

これらの留意点をみると、アライナーでの治療が向くかどうかを見極めること自体、かなりの経験を要することのようです。では、こうした留意点のあるアライナー矯正によって、どのような問題が起きているのでしょうか。
次のページで具体的に確認していきましょう。

★次のページでは、アライナーを用いた不適切な治療の事例についてご紹介!