
公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(会長:土屋朋未)は、全国の15歳~79歳の男女800名を対象に意識調査を実施し、その結果を踏まえて2025年11月6日(木)、メディア各社を対象にプレスセミナーを開催しました。調査からは、主に若年層において矯正歯科治療に対するイメージと実際の治療との間のギャップが明らかになりました。こうした認識の差は、治療を検討する段階での判断にも影響を及ぼす可能性があります。本稿では調査結果を読み解きながら、後悔のない医院選びのために押さえておきたい内容をご紹介します。(記事作成 2026年2月3日)取材・文:冨部志保子(編集・ライター)
調査方法:インターネット調査
調査期間:2025年10月1日(水)~7日(火)
調査対象:全国の矯正歯科治療を検討中の15歳~79歳の男女
有効回答数:800名
若年層で高まる矯正歯科治療への関心
―その背景にある意識の変化
見た目改善が治療検討の大きな動機に
まず、次のグラフをご覧ください。

多くの世代を通して矯正歯科治療を検討する理由として最も多かったのは、「咬み合わせの改善」です。しかし、年代別に見ると、若年層では「コンプレックス解消」が、それを上回る結果となりました。口もとの印象が顔全体のイメージに影響を与えることは広く知られるようになった現在、歯並びを整えることを自己投資の一つとして前向きに捉える傾向が強まっていると考えられます。
また、近年はSNSや動画配信サービスを通じて口もとの美しさに関する情報に触れる機会が増え、矯正歯科治療をより身近なものとして認識する若者も少なくありません。こうした環境の変化は、これまで治療に踏み出せなかった層の関心を高めるという点で、矯正歯科医療の裾野を広げているともいえるでしょう。
一方で、見た目の改善に注目が集まるほど、医療的な側面への理解が十分に伴わないまま検討が進む可能性もあります。詳細は後述しますが、今回の調査結果からは若年層では費用を重視する傾向も見られ、治療に対する現実的な視点がうかがえました。
これは合理的に治療を選択しようとする姿勢の表れともいえますが、医療においては価格だけで比較することは必ずしも適切とは限りません。矯正歯科治療は単に歯列を整えるだけではなく、咬み合わせや口腔機能のバランスを調整し、長期的な健康維持にも関わる医療であり、審美面と機能面の双方を視野に入れながら治療を検討することが大切です。
10代・20代では「コンプレックス解消」が相対的に高く、年齢があがるほど低下する傾向が見られます。
SNS時代の医療情報との向き合い方
―広がる選択肢と潜むリスク
若年層はSNSを情報源に治療先を選ぶ
矯正歯科治療を検討する際の情報源として、10代・20代ではSNSや動画配信サービス、インターネット広告などを通じて情報を得る割合が高く、情報収集の入口がデジタルメディアに大きく依存している傾向が見られます。
医療機関に関する情報は、従来、家族や知人からの紹介、あるいは実際に受診した経験を通じて得ることが一般的でしたが、今では受診前の段階で大量の情報に触れ、自分なりの判断基準を形成する人が増えています。これは患者が主体的に医療を選択しようとする姿勢の表れともいえ、医療への関心の高まりという点では歓迎すべき変化といえるでしょう。
その一方で、情報量が増えるほど「何を基準に選ぶか」という新たな課題も生まれます。SNSには実際の体験に基づく投稿がある反面、費用の安さや短期間での治療といったわかりやすい特徴が強調されやすく、治療の適応範囲やリスク、診断の重要性といった本質的な情報が十分に伝わらない場合もあります。こうした情報のみで治療を判断することには、注意が必要です。

10代・20代の半数以上は、SNS(X、Instagramなど)やYouTubeを通じて情報を得る割合が高く、情報入手方法に明確な世代差が見て取れます。
利便性の高い情報ほど注意が必要
SNSが持つ特徴の一つに、利用者の興味や関心に近い情報が優先的に表示される仕組みがあります。いわゆる「フィルターバブル」と呼ばれる現象で、似た傾向の情報に触れ続けることで、特定の価値観が自然と強化される可能性が指摘されています。
例えば「目立たない装置」「短期間」「通院回数が少ない」といった利便性の高い情報に繰り返し触れると、それが矯正歯科治療の一般的なあり方のように感じられることがあります。しかし、実際の治療方法は患者の口腔状態や骨格のバランスなどによって異なり、十分な検査と診断を経てはじめて適切な方針と治療計画が立てられます。
情報が身近になった現代において重要なのは、情報を多く得ることではなく、その背景まで想像しながら読み解く姿勢といえるでしょう。
「比較できる時代」に起きていること
もう一つ注目したいのは、多くの情報に触れられる環境が「比較」を前提とした医療選択を後押ししている点です。費用や通いやすさ、見た目の変化など、わかりやすい要素は判断基準として機能しやすい一方で、診断力や治療計画の精度といった専門性は外から見えにくいものです。
その結果、本来は重視されるべき医療の質よりも、判断しやすい条件が優先されてしまいます。これは矯正歯科に限った話ではなく、情報化が進む医療全体に共通する課題ともいえるでしょう。
こうした環境の変化は若年層だけの問題ではありません。子どもの治療を検討する保護者世代にとっても、情報の選び方が結果を左右する時代になっています。だからこそ、医療機関が発信する情報に加えて、専門資格や診療体制といった客観的な指標に目を向ける視点がこれまで以上に重要になっています。

全世代で「口コミ」および「通院に便利な立地」が高い結果に。また、10代・20代では「費用が安価」が高い数値を示しているほか、「受賞歴や症例件数などの実績」も他世代より明確に高い点が特徴的です。
期待と現実の間に生まれるギャップ
矯正歯科治療にかかる費用の相場は、マルチブラケット(表側)で70~120万円、裏側矯正で100~180万円、マウスピース矯正で90~120万円(いずれも調整費込)が目安です。しかし、今回の調査結果では、多くの回答者が実際の治療費より低い金額を想定していることが明らかになりました。
また、治療期間についても、矯正歯科治療は平均2~3年が一般的ですが、約8割が「2年未満であれば治療したい」と回答しており、治療期間にも認識の差が見られます。
こうした認識の違いは、治療開始後の戸惑いや不安につながる可能性があります。骨や組織の変化を伴う矯正歯科治療には年単位の期間が必要であり、治療方針への理解と納得が継続的な通院を支える要素になります。事前に十分な説明を受け、自分に合った治療かどうかを見極めることが欠かせません。
情報があふれる時代だからこそ、わかりやすい言葉や印象だけで判断するのではなく、その情報がどのような前提のもとに提示されているのかまで考える姿勢が求められています。

全世代で約8割が「2年未満」と解答。特に10代では「半年~1年未満」「1~2年未満」が多く、20代・30代でも同様の傾向が見られます。

全体では「30~60万円未満」が最も多く、10代では「30万未満」が最多。全世代で「60万未満」を挙げる人が多数を占め、実際の相場との差が大きいことがわかります。
知っておきたい矯正歯科医院の選び方
―初診相談が治療の方向性を左右する
矯正歯科治療はどこで受けても同じではない
矯正歯科治療は、どの医療機関で診断を受けるかによって治療方針や結果が左右されます。そのため、治療を始める前に比較検討することは重要なプロセスといえるでしょう。
調査では、多くの人が「初めての治療相談は複数の医院に行く」と回答しました。その内訳を見ると、「矯正歯科専門医院に行く」が47.4%、「一般歯科に行く」が30.1%となっており、専門医院を選択肢に含める意識は一定程度広がっていることがわかります。
年代別に見ると、その傾向はさらに明確になります。10代の相談先は「一般歯科」が41.7%であるのに対し、「矯正歯科専門医院」は31.3%にとどまり、20代では両者が42.2%で並びました。若年層ほど相談先を明確に区別していない様子がうかがえます。
これに対し、年代が上がるにつれて専門医院を選択する割合は増加し、50代では53.1%、60代では57.4%に達しています。経験や情報の蓄積により、専門性を意識した受診行動へと変化していることがわかります。
複数の医院を訪れて判断しようとする姿勢自体は、慎重な意思決定として望ましいものです。しかし、専門医院と一般歯科の違いを十分に理解しないまま比較してしまうと、適切な選択につながりにくい可能性があります。初診相談は単なる入口ではなく、その後に提示される治療計画や選択肢の幅にも関わる重要な段階として認識することが大切です。

若年層の多くが一般歯科も相談先として検討している実態が見られました。初診相談の段階から医療機関の特徴を理解することの重要性が示唆されます。
専門性は「看板」だけでは見えにくい
今回の調査からは、矯正歯科医院を選ぶ際に専門資格への理解が十分に浸透していない可能性も示されました。その背景の一つとして挙げられるのが、「自由標榜制(じゆうひょうぼうせい)」です。日本では歯科医師免許を持つ医師であれば、専門的な研修や認定資格の有無にかかわらず、広告可能な科目(歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科)の看板を自由に掲げることができます。
その結果、医療機関の数が増えることは患者にとって選択肢の広がりにつながる反面、外からは専門性の違いが見えにくく、「どこを選べばよいのかわかりにくい」という状況を生みやすくなります。
矯正歯科の分野には、日本矯正歯科学会の認定医や臨床医、日本歯科専門医機構の専門医など、一定の教育と臨床経験を積んだ歯科医師がいます。資格の有無だけで医療の質が決まるわけではありませんが、専門的な研鑽を重ねてきた一つの指標として参考になります。歯科医師の経歴や資格、治療方針が丁寧に説明されているかを確認することは、医院選びの重要な手がかりになるはずです。

全年代の8割が自由標榜制について知らず、医院選びの誤認リスクが懸念されます。
後悔しない矯正歯科医院を選ぶポイント
①医院のホームページで正確な情報を集める
では、後悔のない矯正歯科治療のためには、どのような視点で医院を選べばよいのでしょうか。
医院選びの第一歩は、正確な情報を集めることです。特に医院のホームページには、その医院の姿勢が表れます。担当する歯科医師の経歴や資格、治療方針、費用や期間についての説明が丁寧に記載されているかどうかは、信頼性を判断するうえでの一つの目安になります。
一方で、歯科医師の氏名や経歴が十分に示されていないホームページや、「簡単に治る」「短期間で完了する」といった表現が強調されている広告も見受けられます。医療広告には一定のルールが設けられているため、こうした表現には注意が必要です。
②認定資格をチェックする
矯正歯科医には、専門的な研修と臨床経験を積んだことを示す認定資格があります。例えば、日本矯正歯科学会の認定医・臨床医(旧臨床指導医)や、日本歯科専門医機構が認定する矯正歯科専門医などです。どの団体が認定している資格なのかを確認することも重要な視点です。これらの資格は、大学の矯正歯科や認定研修施設での複数年にわたる研修に加え、厳格な審査を経て取得されるものです。さらに、これらの資格保有者は各学会や専門機構のホームページで公開されており、患者自身が客観的な情報を確認できる仕組みも整えられています。医院の情報だけで判断が難しい場合には、こうした公的情報を参照することも有効です。
③実際に足を運ぶ
候補となる医院が見つかったら、実際に相談やカウンセリングを受けてみることも大切です。矯正歯科治療は長期間に及ぶため、医院の雰囲気や通いやすさ、説明のわかりやすさ、質問に丁寧に向き合ってくれるかといった点も重要な判断材料になります。
近年はマウスピース矯正(アライナー型矯正装置を用いた矯正歯科治療)が広く知られるようになりましたが、すべての症例に適しているわけではありません。特定の装置を用いた治療方法にこだわることなく、患者の状態に応じて適切な治療方針を提示できるか、状況の変化に応じて治療方法を柔軟に見直せる体制があるかどうかも、専門的な医療機関を見極めるポイントといえるでしょう。
「矯正歯科何でも相談」の活用も
正しい情報と確かな基準をもとに医院選びを行うことが、納得のいく治療につながります。日本臨床矯正歯科医会では矯正歯科治療に関する相談を受け付けています。疑問や不安がある場合には、こうした窓口を活用することも一つの方法です。
